第二話 ひみつのおうち・・・モエのお庭
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第二話
ちょっといじわる
しちゃった。
悪いことだとわかっているけど、
これしか
いえないこともあるんだ。
ひみつのおうち・・・・モエのお庭
とぽとぽとぽ。ぽちょ、
ぽちょぽちょ。
とぽ、とぽとぽ。
ぽちょぽちょぽちょ。
とぽとぽと。ぽちょ。
テーブルの上にまるを
えがくように並ぶ、
ままごとのティーカップ。
ひとつひとつにそそがれていく、
はちみつ入りハーブティー。
おいしいの。
いっしょにお菓子もならべたの。
ジャムの空きびんには、
つんだばかりの青い花、つゆ草をさし、
テーブルのまんなかにかざって準備おわり。
ティーパーティーのはじまりです。
ここは、ひみつのモエのおうち。
あたらしいおともだちがやってきたのです。
ひみつのおうちがほしかったモエ。
それはママの知らない
おうちのこと。
おもちゃやモエそっくりの子猫のお人形さんに、
ままごとセット、ほかにもいろいろ
もってきました。ここに。
ハコも用意しました。
誰も知らないものを隠しておきたいから。
このおうちってね、
こんなふうにお外につくったの。
まずは、こならの太い枝に、おうちにあった花柄の
肌色ピンクのひがさをぶら下げ、屋根をつくったの。
ひがさの下に、
これもおうちから持ってきた、
今はつかわない
赤ちゃんのシーツをぶら下げ、
まきつけました。
うまくいかなかったけど、
これでかべができました。
誰ものぞくことができません。
地面に青と白のシマウマもようの
ピクニックシートを引いたら、
もう、モエのおうちのできあがりなのです。
ままごとをきれいにならべ、
すごく満足したモエ。
ルリ姫だってほかの子猫たちも
知らない、
ひみつのおうちができたからです。
でも、お人形さんの子猫、
エモだけは、どうしてもいっしょ。
だって、
エモはモエがひとりになると、
いつも話しかけてくれるから。
さー、ひみつのおうちの
ひとときがはじまりました。
エモをままごとのいすに
座らせました。
「まーかわいいこと。モエのおうち。
無理してほめなくてもいいのよ、エモ。
でも、やっぱり
もっとほめてちょうだい。
かわいいよ。モエの お う ち」
おしゃべりはつづいていきます。
「ねーねー、モエ。
やっとおうちが
できたのだから
ふたりのパーティーしましょう。
いいねー。
ママみたいにいすに座ってティーを
のみたかったんでしょう、モエは。
いっしょにお菓子もね、エモ」
二人はおしゃべりに入りこんでいきます。
くぁっくぁっ、くぁっくぁっ。
まえぶれもなく、
お話をさえぎる声。
「だーれ」モエはといかけます。
「こんにちは」
かべのすきまから顔をだします。
「みどりカエルさんだね。
入ってもいいよ。
あのね、ひとつきくけど、
一番えらいのはだーれ」
モエはといかけます。
「モエちゃん」
「あら。モエのみぎどなりにすわってね」
モエはうれしさをかくせません。
ごそごそ、ごそごそ。
「だーれ」
「こんにちは」
シートと地面のちょっとした
すき間から
やっとはいだし、顔をだします。
「モグラさんね。はいってもいいよ。
ひとつきくけど、
一番かわいいのはだーーれ」
「みどりカエルさん。
次にモエちゃん」
「もーっ。モグラさんはね、
はじにすわってください」
にょこにょこ、にょこにょこ。
「だーれ」
「こんにちは」シーツの下の、
石のまた、その下から
ちょこんと小さな顔をだします。
「ダンゴムシさんだよね。
入っていいよ。
ところでね、ひとつきくけど、
モエとみどりカエルさん、
どっちがかわいい」
「わかんない」
「ふーん・・・。ダンゴムシさん、
よく見えないのね。
それじゃーね、ダンゴムシさんの
お顔に大きな目玉をえがいて
あげるね。よーく見えるように」
モエは持ってきた黒の油性ペンで
ぱっちり目玉をえがいてしまいました。
「とくべつだよ。みどりカエルさんと
モグラさんの間にすわってね」
とことことこ、とことことこ。
「だーれ」
「こんにちは」
どこからはいってきたのか、
わからないけど、
アリさんが顔をだします。
「あら、アリさんでしょ。散歩してたの。
はっきりきくけど、
だれがいちばんかわいい」
「ダンゴムシさん」
「いちばんおくにすわってね」
ぶーん、ぶーん。
「だーれ」
「こんにちは」あまやどりのできる
傘の中に、
巣をつくろうとやってきた
とっくりバチさんです。
「とっくりバチさんか。
このおうちはだれのもの」
「モエちゃんのおうち。
巣をつくらせてください」
「いいよ。モエのひだりとなりに
すわってひとやすみしてね」
ツーピツーピ、
ツィピーツィピー
ツィピー。
「だーれ」
「こんにちは」
ひがさの外で
森に染みるような声で鳴いている
シジュウカラさんがこたえます。
「中に入っていいよ。
シジュウカラさんは目がいいから、
聞くけど、モエってはどんな顔」
「わかんない」
「・・・・・。シジュウカラさんの
からだは白と黒ね。
楽しくなさそうだから、
カラーペンシルで
色ぬってあげようか」
「モエっ。さっきから
からかってばかり。
やめなさい。
みんなにあやまりなさい」
こわい顔をしたエモが、
モエの口を両手でふさぎ、
大きな声でおこりました。
「ごめんなさい」
ただただ、
モエはまねをしたかっただけなのに。
ママに読んでもらった
白雪姫の中のセリフのようなのを。
『かがみさん、いちばん美しいのはだーれ』
みたいにね。
モエは、話のあらすじなんか
すっかり忘れたけど、
このセリフだけがどうしても
面白かったのです。
エモにおこられ、
しょぼんとするモエ。
すこし落ちこんでしまいます。
ほんとはあたらしいおともだちができ、
うれしかったんだけど。
でも、こんなことしか
いえなかったモエ。
ゆっくり、おそるおそるね、
みどりカエルさん、モグラさん、ダンゴムシさん、
アリさん、とっくりバチさん、シジュウカラさん、
みんなの顔をぐるっと見わたしました。
ちょっぴり暗い
ひみつのおうちの中は、
ふわふわ、ふわふわ、
まーるいぼんやりひかりが
やさしくゆれています。
肌色ピンクのひがさをすり抜け、
いくつも、あらわれては消える
木もれ日の数々。
みんなの顔をほわーんと
うかびあがらせます。
モエの顔をじっーと見つめています。
さっきまでとんがり三角顔のモエ。
そんな表情なんか、遠いお空にくるくる
まわって飛んで消えてしまうのです。
みんなに囲まれたモエは、
まあーるい笑顔に
輝きはじめます。
「ねー、エモー。エモってば。
あたらしいおともだちが
たくさんできたよ。こんなに」
エモはままごとのいすに
ずーっとすわったままだったのかな、
穏やかな表情で
静かなままです。
「ねーエモ、モエはうれしいの」
モエはあたらしいおともだちに、
はちみつ入りのハーブティーを
ままごとのティーカップに
そそぎはじめます。
はじめて母親からちょっと離れ、
自分だけの秘密の場所をつくるときは
ドキドキするものです。
そんな時、小さな子どもは、
もうひとりの自分と会話しながら、
やさしさに包まれ成長していく
ひとときを体験した方も
多いのではないでしょうか。